首都圏から金沢に家族で移住。東京都に本部を置く認定NPO法人フローレンスでのフルリモート勤務と、金沢の企業での複業を経験した須田麻佑子さんにお話を伺いました。

須田さんは、いつ金沢に移住したんでしたっけ?

2016年の秋ですね。

私たち(林夫婦)と同じくらいですか!私たちも2016年に金沢に来ました。
私の場合、結婚する前から夫の「金沢に帰りたい」という強い希望がありましたが(笑)、須田さんたちご夫婦が金沢への移住を考え始めたのはいつごろですか?

私たちは結婚した当初は関東圏にいましたが、その最初の頃から漠然と「ずっとここで暮らせる…のかな?本当に?」と考えてはいましたね。

通勤一つにしても、満員電車で1時間が当たり前。食べ物も特段おいしいわけでもなく、チェーン店ばかりで…。カフェに入ろうにも毎回行列に並んで。生活の拠点を置くにしても、今は職場が千葉だけれど異動したら横浜、なんてことは当たり前に起こりうる。

子どもが生まれたら入る保育園が決まるまで「保活」をしなければいけないし、大きくなったら受験もするかも、塾も行くかも。

人生のステージが進むたびに毎回こういったイベントを経ないといけない…と考えると、めちゃくちゃ生活コスト高いよね?この生活をずっと続けていて自分たちは幸せか?と夫ともよく話していました。

私たち夫婦が出会ったのも金沢ですし、生活のしやすさを知っていたのでなおさら。

でも3~4年は、具体的な行動を起こさずに漠然と頭の片隅に移住があったような感じです。子どもが小学校に上がるまでには、ぐらいに考えていました。

なるほど。移住に向けての情報収集などはしつつ、ですか?

移住のワークショップなどがあれば、時々行っていましたね。

ただやっぱり、職業選択が一番の悩みでした。

移住の実例を聞いていると、「いい食材があるから能登に移住した料理人」とか「起業」とかばかりで、普通のはないのかと(笑)。

私も夫も、基本的に「雇用されて働く」のをベースとして考えていたので、「サラリーマンとしての移住」の実例が知りたかったし、あとは「金沢に面白い会社がなかったらどうしよう、後悔したくない」というような気持ちもありましたね。

そんな中で、ご主人の転職活動が意外にスムーズに進んで移住に至ったんでしたよね。

はい。夫も、石川の会社の求人など情報収集はよくしていたみたいで、その中で今の勤務先の求人を見つけたんですよね。

当時の夫の仕事も生かせそうな会社に試しに話を聞いてみたところ、とんとん拍子に内定が出たそうです。

そこで、須田さんご自身のお仕事についても考えた?

そうですね。漠然と「働き続けたい」とは思っていましたが、自分の今後のキャリアをどう描くか?は具体的に考えていなかったです。

そもそも夫の内定が出たタイミングは、私の育休明け間近で(笑)。

夫は10月入社で話が進んでいて、私は5月に育休から復帰。

復帰してすぐの面談で上長に事情を伝え、退職する方向で話を進めていました。周囲が理解のある方ばかりで、とても良くしていただいたんです。

ただ、その中で明らかに人が足りていなさそうな状態を見ていて申し訳なくなったのと、自分の業務内容を考えるとリモートでもできなくはないのでは?と感じ、フルリモートでの勤務で仕事を続けさせてもらえないか打診してみました。

それならやってみようと言っていただき、夫は転職・私はフルリモートで元の会社での仕事を継続という形で金沢へ移住できることになりました。

最初に旅音で複業しに来てくれたときは、フルリモートで勤務されてましたね。

はい。フルリモートで勤務するということは、ずっと家にいて仕事ができるということなんですね。

仕事内容自体は好きで不満はなかったですが、家に一人でずっといるともう、病みそうになってきてしまって(笑)。

かといって飲み友達が欲しいのかというとそうではなく、何か自分が役に立てることをやって人と関わりたい、という気持ちが強かったんです。

副業可の求人を少し探してはいましたが、自分の何が売りになるのかよくわからなかった。「これができる人求む」というスキルセットの求人ではなく、「これがしたい人求む」というマインドセットの求人があれば良いなと思っていたんです。

そこに飛び込んできたのが、「金沢のためになる仕事をしたい人求む!」という旅音の求人でした。もう、「これぞ私の事!」と感じてすぐに連絡しました(笑)

最初はお互い、何ができるのか手探りでしたよね(笑)。まずは定例ミーティングに入ってもらうことから始めて。
その中で須田さんから導入の提案をしてもらった予約管理システムは、今も進化しつつ使っています。
旅音で複業してみて、どうでしたか?

ここで働かないとできなかった経験や知り合えなかった人との出会いがたくさんあります。2020年1月に立ち上げた一般社団法人TryAngleも、旅音で複業する中でつながった福井県の在宅医療専門クリニックの先生との出会いから始まりました。今の活動にも直結していますし、得られたものは本当に多いですね。

最初からそれを目的に複業を始めたわけではないんですが、思っていた以上にものすごく得られるものがあって。

複業を始めた理由の、「ずっと家で一人で働くのが辛い!誰かと知り合いたい、地域のために何かしたい!」という精神面のニーズは複業を始めた瞬間に解消されましたし(笑)。

移住前にぼんやり考えたり思い描いていた、自分のしたい生き方や働き方に関する思いがよりくっきりした感じがします。

今、リモートワークが徐々に主流になる中で複業を考える方も増えていますね。

増えてますね。私はコロナでこういう状況になる数年前にフルリモート勤務を始めたということで、少し前は「先駆けですよね!」と言われることも多かったんですが、今はもう珍しくもなんともないですね(笑)。

最近の複業事情を見ていると、私がやっていたように主にサポート的役割で複業をやるという人より、メインの仕事で本丸のところに関わっていてスキルもノウハウも深く、それを他社にも生かせるような「より複業人材として重宝される人」が市場に増えてきている感じがします。

確かに!今旅音に複業で関わってもらっているのも、全体の構想ができるような人ですね。「この仕事をお願いします」と特定の仕事だけやってもらうのではなくて、「そもそもこの仕事は本当に必要か?」を経営目線で一緒に考えてくれるというか。
地方の企業だと特にそういう人材は活きますよね。首都圏よりも規模感の小さな企業が多い分、本人次第でいくらでも中核人材になり得る。

まさにそんな感じですよね。副業=一部の業務を切り出して請け負う、という構図は当たり前ではなくなってきていて、そもそもの仕事やビジネスの構造から考えるような関わり方が大きくなっていくと思います。

2020年3月に旅音での副業を卒業されて、12月にはずっとフルリモートで勤務されていたフローレンスも卒業されましたね。

いろいろな経験をさせていただくうちに、「会社や組織の中核となって、事業や社会を動かす働き方をしたい!」という思いが強くなってきたんです。

これは、フローレンスや旅音で働いた経験がなければ感じなかったことだと思います。

そんな中でちょうど今の勤務先のヴィストのことを知り、会社のビジョンや思いにすごく共感したんです。

ヴィストでは障害のある方の就労支援や障害児通所支援サービスを主にしていますが、「働くことに困難があっても、周りの支援によってその困難は緩やかにできる」という考え方が、私がフローレンスでフルリモート勤務をしていた時に考えていたこととも一致していて。

距離が離れていても、周囲にたくさん支援してもらって私は好きな仕事を続けることができたので。困難がある人も、働く希望を味わえるように、という考え方はすごく意味のあるものだと思ったんです。

今はヴィストで主に広報の仕事をしつつ、業務改善や立ち上げ中のプロジェクトなど細々といろいろなことに携わっている感じです。

仕事の幅が広いですよね。
須田さんはいろいろなことをされているイメージですが、一週間の過ごし方はどんな感じですか?

ヴィストでは週4日の働き方も選択できるので、月・火・木・金に出勤しています。8:30~17:00の勤務なので、だいたい7:30に家を出ますね。

水曜日は自宅で、医療的ケア児の旅行支援をする一般社団法人TryAngleの活動を主にしています。

土日は夫や子どもも休みなので過ごし方はいろいろですが、こども食堂のネットワーク団体でボランティアをしたり、私設図書館の「つくえ文庫」を開いたり、あとは町内会の畑仕事やSNS、書店に行ったり。自分の好きなことをしていますね。

もう仕事と趣味の境目もあいまいな感じですが。

編集後記

今回は須田さんの、町家をリノベーションした素敵なお家で取材をさせていただきました。

取材時は冬で畑は休眠中とのことでしたが、暖かい時期は畑でいろいろな作物を育てたり、無理なく上手くデザインされた町内のシステムに驚きつつ溶け込んでいたり、ご家族で金沢での暮らしを満喫されている須田さん。

自分たちの求める生き方はどんな生き方か?を素直に追求して、なければ自分で作り、結果的にお気に入りに囲まれている須田さんの生活は、これからの時代の新たなスタンダードになっていくと感じました!

林佳奈

株式会社こみんぐる代表取締役。 愛知県生まれで現在石川県金沢市在住。2009年に株式会社リクルートキャリア(旧リクルートエージェント)に入社。法人営業を3年経験のうちチームリーダーとしてマネジメントを経験。2016年に結婚を機に金沢に移住。移住と同時に起業し、「金沢の為になることをしよう」という想いから、夫婦で現在の”旅音”という宿事業をスタート。2021年現在、主に一棟貸しを中心とした宿泊施設を金沢市内に23棟運営している。