神戸生まれ神戸育ち、生粋の関西人ながら2014年に富山県立山に移住した佐藤将貴さん。 一棟貸切宿「埜の家」のマネージャーとして、熱い思いを胸に日々活動する“愛すべきほら吹き山男”佐藤さんにお話を伺いました。

佐藤さんは、昔から地方移住に興味があったんでしょうか?

僕は神戸の出身ですが大自然や登山が好きで、妻と「いつかは田舎に移住したいね」とずっと話していたんです。妻は陶芸家なので、彼女は彼女で「広い土地で創作活動をしたい」という思いがあったんですね。

ただ、明確に「ここに移住しよう!」とは決まっていない時期が長かったです。

そんな中で、大きなきっかけになったのが2011年の東日本大震災でした。

それまでは「いつかは田舎暮らしをしたい」の「いつか」を、かなり先のものとしてイメージしていたんです。それこそ、10年後、20年後でも良いのかなと。

ところが東日本大震災があって、当時住んでいた北関東周辺も非常に大きな影響を受けて。「やりたいことは、いつかじゃなくて今やろう」という気持ちになりました。

そうだったんですね。移住先を富山県に決めたのはどういった理由でしたか?

2012年に「おおかみこどもの雨と雪」という映画を観たのが、富山を意識したきっかけでしたね。映画の舞台となっているのが富山の立山で、描かれている里山の風景や生活に心惹かれるものがありました。

それから3回ほど夫婦で富山に旅行するうちに、妻は陶芸家として地域の方と少しつながりが出来て。あるとき、妻に「立山に来て地域おこし協力隊として活動してほしい」というオファーがあったんです。

妻からしたら、「いつか広い土地で創作活動をしたい」という夢が叶う形でしたし、僕もそれが良いと思ったので移住することにしました。2014年の4月、当時0歳の長男と一緒にですね。

スムーズな流れで移住が決まったんですね!
移住してきて、特によかったのはどんなところですか?

なんといっても薪割りができる!薪ストーブは本当に良いですよ。都市部だと煙が気になってできないですしね。

それから、最近知り合いの和尚さんからほら貝を託されたので真剣によく吹いているんですが、それも山の中で遠慮せずに吹けますし。結構遠くまで聞こえるようなんですが、友人から「今日はほら貝吹いてるの?今聞こえたよ」とLINEが入ったり(笑)。里山特有のおおらかさですかね。人との実質的な距離感があって子どもも走り回れますし、ソーシャルディスタンスもわざわざ考えなくても取れます。

それからこれもかなり大きいんですが、住んで7年目ですでに家のローンがないんです。

だから好きなことをして冒険できるんですよ(笑)。最悪の場合も、住むところだけはちゃんとあるという安心感があるのはでかいです。それだけで、人生の描ける自由度が全然違いますね。

確かにそれは大きいですね!
逆に、移住してきて困ったことはありましたか?

うーん…そうですね、ここに来る前はずっと太平洋側で暮らしていたので、一番最初は北陸の冬に精神をやられましたね(笑)。もうずっと曇りでどよーんとしていて…。

でもあるとき切り出した木や廃材を使って薪ストーブをするようになってから、もう、冬が待ち遠しくて。薪割りをして、ゆらゆら揺れる炎を見ていると心も安らいで。その火で鍋やBBQなんかすると最高ですしね。

あとは、自分の子どもを見ていると同い年の子どもが近くに少ないので、ちょっと寂しそうなときがありますね。まったくいないわけではないんですが、少し学年上がるだけで話しかけづらくなったりということもあるようで。そのくらいかな。

 

確かに北陸の冬は天気が悪いですね…(笑)。
移住のきっかけは奥さんの仕事話からということでしたが、佐藤さんはどんな風にお仕事を探されたんですか?

僕は20代の頃からずっと、大型設備機械などの技術営業の仕事をしていました。職場は途中何度か変わりましたが、畑としては同じ分野にずっといて。長くその業界にいると、「この業界ならどこいってもエースはれる」みたいな妙な自信があって(笑)、富山県の地場で同業界の仕事を探して受けました。

 

機械関係のお仕事が長かったんですね。今のお仕事とはかなり違う印象ですが…

全然違いますよね(笑)。

もともと18歳から22歳までミュージシャンを目指して活動していて一区切りして、「ちゃんと給料の入る真っ当な仕事に就こう」というだけの理由で入ったのがたまたまその業界だったんです。長く続いたのでまあ、合っていないわけではなかったんでしょうけど。

一方妻は陶芸家として地域おこし協力隊の活動をしていて、その知り合いがよく家に来ていたんですが、その中にサラリーマンなんてほぼいないんですよ(笑)。

その上、妻は移住してきてすぐに自分で立ち上げた「立山クラフト」のイベントが大成功、ものすごく仕事が充実していて。「すごいことやってるなぁ」と、ちょっとうらやましい思いで見ていましたね。

2019年には富山県地域おこし協力隊の表彰で、妻が初代の最優秀賞で表彰されて。その時妻に向けられていた拍手がすごくまぶしくて、「自分が今やっていることを一生続けても、この種類の拍手ってもらえないんじゃないか」と感じたんです。

それを機に、自分の命を何に使うのかを真剣に考えるようになりました。いろいろな地域の地域プロデューサーに会いに行ったりして、自分にできることを模索して。

その中で2020年1月に、富山の海の方で長屋一棟貸しの宿を運営する、場づくりをしている会社が人員募集をしていたんです。そこに飛び込んで採用してもらい、宿泊業のマネージャーとなりました。

 

一念発起したんですね!でも2020年1月からということは、その後すぐにコロナ騒動があったのでは?

その通りです。3月にはコロナ騒動で1か月宿を休業することになり、空いた時間で別のことを始めました。この地域のために自分のできることは何かずっと考えていたのですが、思い至った結論の一つが里山の森林の整備。人口減少や少子高齢化に伴い、田んぼや山・森林の整備に人の手が回らず、自分の大好きな美しい里山の景観が失われつつあったんです。

そこで立山の忘れ去られた登山道を1か月かけて調査し、手作業で整備することにしました。突飛すぎて誰にも相手にされなかったので、1人で(笑)。

毎朝出勤前にノコギリとクワを持って山に行き、1人で2時間黙々と木を切り道を拓く、そんな生活を半年続けました。

その結果、小さな里山「大観峯」の荒れ果てた登山道だったところに、マウンテンバイクで走れる2kmの道ができたんです。

いてもたってもいられず、地域の方や役場の方を案内しました。

たった1人で半年!すごいエネルギーですね!
それが今の活動にもつながっているんですか?

はい、実はこの話には続きがありまして。旧登山道をさらに奥へ進むと、歴史に埋もれた洞窟や廃村の牧場跡、忘れ去られたキャンプ場など、隠れた“お宝”がたくさん見つかったんです。しかも立山町史と照らし合わせると、どうも旧登山道や林道を開拓することで、かつての立山信仰の参拝道が復活しそうだということがわかったんです!

僕が開拓した「大観峯」トレイルのほか、将来的にはさらに5本のトレイルを整備して、すべてを巡ることで「修験道」としての歴史を発掘できるようにする。これは絶対に面白いし、里山の未来を切り拓くことになると思うんです。

このワクワクを自分や地元の人だけでなく県外や都会の人とも共有したくて考えた結果、思いついたのが「里山マウンテンバイクツーリズム」です。マウンテンバイクで鼻歌まじりに走りながら、里山の穏やかな自然環境や眺望の良さを肌で感じ、自分のペースで地域の魅力を満喫する。最高じゃないですか?

ただ、多くの方に気軽に里山を楽しんでもらうためには、道だけを用意するのではなく「足」としての電動アシストのついたEマウンテンバイクも必須!そのEマウンテンバイク購入のためにクラウドファンディングも始めました。

今僕は一棟貸切宿「埜の家」のマネージャーをしています。本業は?とたまに聞かれ、どっちも本業!両方大好き!!って活動していたら会社内に「里山マウンテンバイクツーリズム事業部」ができました(笑)。めちゃくちゃ責任重大!(震ぶる)

 

完全に佐藤さんのために作られた部署ですよね(笑)。
でも1人で半年間山道を整備する信念とエネルギーがあるなら、自分で起業しようとは考えなかったですか?

そうですね…自分の一番の目的である里山の暮らしの保護や復活に対して、その時に一番良い方法が起業だったとしたらそうしていたと思います。

幸いなことに、ベストタイミングで今の会社とご縁があり、最初から社長と想いの部分が共有できたのですごく理解があるんですよね。

僕の中で一番大切なのは、「どうしたら今ある状況や縁を生かして、里山がみんなで楽しめる未来を実現できるか?」ということ。起業する前に、この会社に入って活動する、ということですでに目的達成のための道筋が成立したんです。

 

一番の目標をブレずに見据えているんですね!
その目標にここまでの情熱を燃やせるのはどうしてでしょうか?何か原体験があるんですか?

移住してきて7年になりますが、7年間里山に暮らしてきて、僕は立山からずっとプレゼントをもらい続けている感覚なんですよ。

夕暮れの一瞬や立山に昇る朝日、きれいに見える立山連峰…。これだけたくさんのプレゼントをもらい続けたら、やっぱりお返ししなくちゃという感覚になるんです。

今の里山の暮らしを支えてきたのは現在70代、80代の方たち。あと10年もしたら、今と同じようには里山の手入れができなくなると思うと、自分ができることを何かしよう!と思います。

立山からのプレゼントですか。素敵ですね!
確かに、地域の自然から私たちが受け取っているものはたくさんありますね。

編集後記

とにかく立山への愛がものすごく、ついついもっとお話を聞きたくなってしまう佐藤さん。

「大好きなこの地のためになることを!」と始めた里山マウンテンバイクツーリズムも、応援したくなるエネルギー満載でした。

佐藤さんのクラウドファンディングはこちら▼
https://camp-fire.jp/projects/view/374844?list=search_result_projects_popular

2021年4月22日までのチャレンジだそうです!

北川春実

株式会社こみんぐるスタッフ。 石川県白山市出身。大学卒業後、地元にUターン就職し公立小学校教員として2年間勤務。その後株式会社リクルートキャリアに転職し、北陸の新卒採用を企業側から支援する業務に4年弱従事する。 退職後マルタやカナダでの海外生活を経て、2019年にこみんぐるに入社。